2009年7月27日(月) 午後2時〜 大阪地方裁判所 202号法廷 大阪空襲訴訟 第3回弁論の報告 |
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原告の小林英子さんと、弁護士2名が意見陳述をしました。 ※ 提出した書類は、こちらのページへ |
◆内容◆ 原告 小林英子さんの意見陳述 弁護士 西 晃 の意見陳述 |
弁護士 喜田崇之の意見陳述 パワーポイント画面もあります |
平成21年7月27日 . 昭和20年6月7日、私がまだ12歳のとき、都島を襲った大空襲により、右足を負傷しました。女学校に入学してわずか2か月目のことでした。 |
2009年7月27日 . 第1 はじめに 代理人の弁護士の喜田から申し上げます。 私の方からは、第一に、軍人等と民間人の空襲被災者との間にある、戦後補償における大きな格差の内容を明らかにするとともに、第二に、そのような格差が放置されることにもはや合理的な理由は見いだせないこと、すなわち、ことは既に立法裁量の問題ではなくなっていることを、要点を絞って意見申し上げます。 そして、かかる放置による格差ないし不平等の拡大は、もはや誰の目から見ても合理的に説明できるような状況にはなく、憲法14条が定める平等原則に明らかに反するものであり、まさに憲法違反の重大性・継続性を示すものであることを述べます。 最後に、西代理人の方から、立法不作為の違法性論、本件におけるあてはめを、被告国の答弁内容との対比において述べ、裁判所への要望を述べることとします。 第2 補償の格差 1 それでは、軍人軍属と民間人の空襲被災者との間にある、大きな補償の格差について述べます。 まず、軍人軍属に対するこれまでの補償の経緯についてです。 1952(昭和27)年、戦傷病者戦没者遺族等援護法が制定され、翌1953(昭和28)年、軍人恩給法が改正されました。これらの法律により、旧軍人軍属に限定して援護が行われることとなりました。 軍人軍属関係の援護補償の支出累計は、1952(昭和27)年以降から1997(平成9)年までで、総計41兆2103億円であり、現在も、軍人軍属関係の恩給と遺族年金の支給額は、年間平均1兆円近くの予算が組まれています。 したがって、軍人軍属関係の支出は、2009(平成21)年現在時点で50兆円を優に超える莫大な数字となっていると考えられるのであります。 2 次に、旧軍人軍属に対する金銭給付の内容がどのようなものであったかについて述べます。 パワーポイントの図をご覧ください。 元軍人に対しては、恩給法による恩給制度があります。恩給の支給額は、軍人としての兵役年数と傷病の程度により決せられます。PPの図の一番左側の縦の欄が傷病の程度による区分、左から二番目と真ん中が兵役年数による区分です。これは、恩給法別表第1号表ノ二及び第一号表ノ三によるものです。 例えば、膝関節以上で両下肢を失ったものは、第1項症第7号として区分され、兵役12年以上の軍人であれば、普通恩給113万2700円と増加恩給572万3000円、合計686万6000円の補償を受けることになるのです。 また、恩給の対象外となる元軍属・準軍属に対しては、戦傷病者戦没者遺族等援護法7条1項による障害年金制度があります。これには、在職期間の長短による区分はありません。 同じく、膝関節以上で両下肢を失ったものは、第1項症第7号と区分され、障害年金572万3000円の補償を受けるのです。 3 では、一般民間人である空襲被災者に対する補償内容はどうでしょうか。 上の図でいう、一番右側の部分です。 空襲被災者である一般戦争被災者は、一般社会保障法の枠内の中での救済にとどめられたため、戦災により障害を受けたとしても、年金を受け取るためには、国民年金法に基づく障害基礎年金を受給する他ありませんでした。 しかし、障害基礎年金を受給するためには、同法独自の基準による障害等級のうち1級もしくは2級(恩給法と比較して重度障害に限られ、その範囲は極めて限定される)に該当しなければなりません(国民年金法施行令4条の6および別表)。1級とされとしても99万125円の受給にとどまり、受け取れる年金の額も、軍人軍属の場合と比較していずれも極めて低額となっています。 4 それでは、原告らの現在の補償内容と、原告らと同程度の障害を有する軍人軍属との場合の支給額を比較すると、どれほどの差があるのかを検討します。 原告Aは左足の膝から下を失っており、原告Kは左足の大腿部から下を失っています。両名とも「膝関節以上で一下肢を失ったもの」(障害等級2級)として障害年金を受給しています。 他方恩給法における症状区分では、少なくとも「膝関節以上で一下肢を失ったもの」(第3項症)に相当すると考えられます。したがって、この2名が受け取っている年金額と、もし同じ障害を有する元軍人軍属であった場合に受給できる金額を比較すると、この図のようになります。同程度の障害を負った在職12年以上の軍人との差は、年間426万7600円になります。 原告Cの場合、左膝に鉄の破片の直撃を受けて膝が曲がらないようになり、身体障害等級4級の認定を受けているが、障害年金は受給できておらず、障害に基づく公的給付は何もありません。 他方、恩給法における症状区分では、少なくとも「足関節以上で一下肢を失ったもの」(第4項症6号)に相当すると考えられます。したがって、もし軍人または軍属等である場合には、この図のようになります。同程度の障害を負った在職12年以上の軍人との差は、424万0700円になります。 原告Dの場合、顔面や手を含む広範囲に火傷痕のケロイドが残り、口は3分の1しか開かなくなり、左手の親指・薬指・小指は曲がったままになっています。それでも障害等級1〜2級には該当しないため障害年金は受給できていません。 他方、恩給法における症状区分では、少なくとも「頭部、顔面等に大きい醜状を残したもの」(第4項症)、「咀嚼又は言語の機能を著しく妨げるもの」(第4項症)、「一側のおや指の機能を廃したもの」(第1款症)に相当するため、これら複数の症状を合算して第3項症が認定されるものと考えられます。したがって、もし軍人または軍属等である場合には、この図のようになります。同程度の障害を負った在職12年以上の軍人との差は505万9700円の差となります。 最後に、これらの差額の累計はいくらになるのかを検討します。 仮に在職12年以上の軍人が各4名の原告と同程度の障害を負った場合と比較すると、この図のようになります。 原告Kは、1974年4月から現在まで35年間、障害年金を受給してきました。そして、原告A、原告Kと同程度の障害を負った在職12年以上の軍人が、このときから恩給を受けていたとすれば、現在の貨幣価値で考えれば、累計426万7600円×35年=1億4936万6000円もの差が生じていることになります。 また、原告Cと同程度の障害を負った在職12年以上の軍人が、1964(昭和39)年(原告Cが30歳のとき)から現在までの46年間、恩給を受給した場合と比較すると、現在の貨幣価値で考えれば、累計424万0700円×46年=1億9507万2200円もの差が生じていることになります。 さらに、原告Dと同程度の障害を負った在職12年以上の軍人が、1961(昭和36)年(原告Dが30歳のとき)から現在までの48年間、恩給を受けていた場合、現在の貨幣価値で考えれば、505万9700円×48年=累計2億4286万5600円もの差が生じていることになるのです。 同じ戦争で同じ障害を負ったとしても、軍人軍属と民間人との間にこれほどの格差が生じているのです。 5 このように、軍人軍属等は、戦後まもなくから様々な立法が制定されることにより援護の対象とされ、実に累計50兆円以上もの手厚い補償がなされてきており、現在でも毎年1兆円規模の予算を組んで補償が継続されています。 他方、空襲被災者に対しては、重度障害を負った者に対してすら一般社会保障の枠内における極めて不十分な補償の対象としかされず、重度障害に至らない障害を負った者については、全く保障の枠外とされてきたのです。このような空襲被災者と軍人軍属との格差は看過することのできない状態にあり、一般空襲被災者と軍人軍属の間には、補償についての著しい不平等が生じているといわざるをえないのであります。 第3 補償の要件として国家との身分関係を要求することに合理的根拠がない 1 次に、補償の要件として国家との身分関係を要求することに合理的根拠はないことを述べます。 ここでは、まず、民間人に対しての補償の広がりがあることを述べます。。 2 まず第一に、救済の範囲が民間人へ広がっていったことを述べます。 援護関連法は、前述のように、基本的には国との雇用・身分関係のある者を対象としてきました。 しかし、国はその後も、国との雇用関係ないしそれに準ずる関係のない範疇のものに対しても、被害の悲惨さや救済の必要性、及びその時々の政治的配慮等から、援護の対象としてきました。 代表的なものを挙げますと、原爆被爆者に対して、諸立法が制定され、被爆者である多くの民間人が援護対象となりました。 それから、中国残留邦人等にも新たな立法策がとられ、援護の対象となりました。 そして、沖縄戦の被災者です。 3 沖縄戦と被災者との比較 (1) 次に、実態として空襲被災者と異ならない多くの沖縄戦の民間被災者に対して、戦後補償されている実態を特に詳細に述べ、補償の要件として国家との身分関係を要求することに合理的な根拠がないことを論証致します。 (2) 沖縄戦においては、多くの一般住民の犠牲者を出したが、戦争病者戦没者遺族等援護法は、補償の対象を、「軍人軍属・準軍属」に限定していたため、それ以外の一般住民の被害者は、戦傷病者戦没者遺族等援護法の対象外とされていました。 そこで、沖縄戦の民間人被害者の遺族らが、政府に対し、民間人にも同法の適用を求める運動を展開しました。 これにより、日本政府は、沖縄が日本で唯一民間人多数を巻き込む地上戦が行われた地であることを理由に、実質的に民間人も同法の対象となるように、1958(昭和33)年5月、以下のような運用を行うこととしました。 すなわち、一般住民であっても戦闘に協力した「戦闘参加者」に該当すれば、援護法にいう「準軍属」に認定し、遺族給与金などを支給できるように改めました。そして、「戦闘参加者」に該当する場合は、下の図の20項目のいずれかに該当すればよいとされたのです。 要するに、これら20項目のいずれかに該当する一般民間人は、援護法の適用対象となったのであります。 (3) では、「戦闘参加者」の判断実態はいかなるものだったのでしょうか。 例えば、一般住民が日本兵から壕を強制的に追い出されたりすれば、それだけでI「壕の提供」とされたのです。従って、そのために米軍に発見され死亡した場合には、援護法の適用対象となったのです。 また、日本兵に食糧を強奪され餓えて死んだ場合であっても、E「食料提供」とされました。 N集団自決にいたっては、住民が生きて敵のスパイとなることのおそれを自決によって自ら防止、その結果、軍の戦闘能力の低減の未然防止に寄与したと評価されたため、「戦闘参加者」に該当するとされました。ゆえに、例えば米兵に追われ、自決をせざるをえなかった者もNに該当し、「戦闘参加者」とされたのです。 これらのことから明らかなように、上記20項目のいずれかに該当し「戦闘参加者」として扱われた一般住民の多くは、地上戦の戦闘行為自体には加担しておらず、国や軍の命令を受けることもなく、単に悲惨な沖縄戦に巻き込まれ、死傷したものばかりであります。形式的には、戦闘に参加したことになっているが、その実態はまさに空襲被災者と同じように、悲惨な戦争に単純に巻き込まれた民間人なのです。 (4) このことは、年齢制限が撤廃されたことからも明らかとなります。 これまで戦闘時において6歳未満の児童は「戦闘参加者」として扱われていなかったところ、1981(昭和56)年8月から、6歳未満の児童も援護法の対象とされることになりました。 すなわち、6歳未満であっても(たとえ0歳児であっても)、「戦闘参加者」とされるようになったのです。しかし、6歳未満の者が、直接的な意味での戦闘参加をすることなどできないことはいうまでもありません。これら6歳未満の児童が上記20項目のいずれかに該当し、「戦闘参加者」として認定されてきたということはそれすなわち、6歳未満の児童がなすすべもなく戦闘に巻き込まれて犠牲になったことに対して、実質的にほぼ無条件で援護法の対象とするべく運用を変更したにすぎないのであります。 このことからも、形式は準軍属という認定を受けているとしても、その実態は、ただ単純に沖縄戦に巻き込まれ被災した一般民間人ということだけであって、国家との身分関係や、国・軍等からの命令も受けず、ただ、戦争の犠牲者となった者に対して援護法が適用されていることがわかります。 (5) 次に、空襲被災者との共通性を述べます。以下のような共通性があります。 すでに原告ら第1準備書面において詳述したように、空襲時において、民間人は、罰則をもって避難を禁じられ、また極めて不十分な(時には欺罔的な)情報しか与えられないまま、空襲により、被害を受けました。 地上戦の舞台となった沖縄においても、犠牲となった多くの民間人は、日本軍の強制のもと、その意志に基づいた自由な避難も許されず、また当然、避難に必要な情報も与えられることなく、為す術もなく被害を受けたのであります。 国家の強制のもと、自由な避難も許されないまま、悲惨な被害を受けたという点において、両者は全く同じと言っても過言ではありません。 ところが、沖縄戦で犠牲になった民間人に対しては、遺族の要請を受け、援護法適用の対象としたにもかかわらず、空襲被災者に対しては、犠牲者・遺族が何十回にわたって立法要請・補償要請をしてきたにもかかわらず、これに対して援護法の適用を与える等の措置を講じられることはありませんでした。 上記のような実質面を見れば、沖縄戦の被害者と、空襲被害者とを区別する合理的な理由は何ら存しないのであります。 沖縄戦の民間人だけ補償の対象となり、空襲被災者が補償とならないということに、もはや合理的な説明など誰もできるはずがありません。 4 このように、現時点において、戦争被害者に対する補償に関して一般民間人を戦争被害の補償の枠外とすることに何らの合理性も見いだせないのであります。 第4 まとめ 以上見てきたように、戦争被害者に対する援護費関係の支出は、その主要なものである軍人軍属・準軍人に対しては、現在まで50兆円以上と考えられる莫大な救済措置がとられてきており、かつ現在も毎年1兆円もの予算が組まれており、個別の補償内容を見ても、一般社会保障法の枠内での保障しか受けられない一般戦災者との格差は膨大であります。 特に、障害年金の受給資格が厳格なため、一般被災者の多くは、障害年金を受け取ることができず、その結果、同じ戦争で同じ障害を被ったとしても、例えば、それが軍人軍属である場合と否とで、あまりに不均衡な格差が生じているのであります。そして、この格差が、何年も何十年も積み重なり、埋めつくしようのない大きな格差、すなわち差別が生じています。 他方で、今見てきたように、援護の対象を受けるために国との雇用関係や身分関係を要求することは、現在では合理的な理由を見出すことはできません。 ゆえに、ただ単に一般民間人であることを理由として補償の対象外とすることは、空襲被災者への救済の放置であり、救済についての不平等に他ならないのであります。 そうであるから、原告ら空襲被災者と、すでに補償を受けているそれ以外の戦争被害者を差別して、補償に差を設け、それを放置し続けることは、憲法14条が規定する平等原則に明らかに反するものであるといえるのです。 |
2009年7月27日 . 私の方からは、相代理人(喜田代理人)の意見陳述を受けて、立法不作為の違法性論、本件におけるあてはめを、被告国の答弁内容との対比において述べ、最後に裁判所への要望を述べることとします。 1, これまで検討してきたように、本件原告らを含む空襲被災者は、戦傷病者戦没者遺族等援護法その他の立法により救済を図られてきた軍人・軍属の遺・家族等に比較して、一般社会保障の限度でしか保護を受けられず,著しい格差が生じています。その格差・不平等は、喜田代理人からの指摘通り、もはや誰の目から見ても合理的に説明できる状況にはなく、原告ら空襲被災者の人格権を著しく侵害するものであり、何よりも法の下の平等を定めた憲法14条に明確に違反するものであります。そしてそれはまさしく、平成17年(2005年)9月14日最高裁判決の言う「立法の不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害する場合」です。 なお,国の立法義務を論じる場合においては、対象となる救済立法の一義性・明確性も要求されるところとなりますが、この点に関しては、既に国会に繰り返し「戦時災害援護法(案)」が提出されてきていることからも、救済立法内容は十二分に明確なものとなっているものといえます。 これらを踏まえ、原告らの本件訴訟における請求内容を端的に整理するならば、「国の救済立法の不作為(国家公務員たる国会議員の職務違反行為)が原告らの有する憲法上の権利(人格権・平等権)を継続的に侵害し続けてきたこと、及びこれが原告らに深刻な人権侵害を生じさせているという点で、これを「違法な公権力の行使」と捉え、そして,その違法な公権力の行使(不作為=放置)により、原告らに生じた苦痛(それは日本国民の一人として人間らしく生きる権利を長年に亘って踏みにじられたという意味において、精神的・経済的損害の総体を反映する全人格的なものである)を損害賠償請求(及び謝罪請求)の対象としているものであります。 2, 上記原告らの主張に関して、被告国は平成21年3月4日付答弁書において、様々に主張しています。その内容を簡潔に整理するならば、「・・原告らが主張する損害は、戦争犠牲ないし戦争損害として、国民が等しく受忍しなければならなかったところであり、『これに対する補償は憲法の予想しないところ』であるから、その損害に対して、社会福祉政策としての救済立法をしないことが、『国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白な場合』に該当しないことは自明であるし、『国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために救済措置を講ずべきことが必要不可欠であり、それが明白である場合』に該当しないことも明らかである」とするものであり(答弁書8〜9頁)、また「・・・本件訴訟における原告らの請求は、要するに、先の大戦によって国民に生じた損害について、国に『補償』ないし『賠償』という形で救済するように主張するものであるから、その主張する損害が戦争損害に該当することは明らかである」としており、結論として「・・このように原告らの受けた損害は憲法の枠外の損害であって、それを賠償ないし補償すべき立法をしない不作為が国賠法上違法であると評価される余地はない」とするものです(同10頁)。 3, 私達は、このような被告国の理屈は全くもっておかしい、間違っていると思います。原告らは憲法の予想しないことを主張しているのでは決してなく、逆に真正面から憲法を根拠に国の立法不作為の違法を主張しているのです。 原告らの国に対する最終的な要求内容が、「先の大戦によって国民に生じた損害について、国に『補償』ないし『賠償』という形で救済するように主張するもの」であることはその通りであり、そこで問題としている被害(損害)が、先の戦争により被った様々な戦争被害であることはその通りです。しかしながら、このような原告らの政治部門に対する政治的要求それ自体と、本件訴訟で司法裁判所に主張している法的主張はおのずと別のものであるはずです。 原告らは補償のための救済立法をつくってこなかった公務員の立法不作為の違法性を主張しているのであります。 そしてその違法の核心部分は、国による不合理な「差別」です。 確かに先の戦争が無惨な敗戦に終わった昭和20年8月15日の、その時点に立って見るならば、その戦争によって生じた被害は、「軍人」「軍属」「その家族・遺族」「準軍属」「原爆被爆者」「抑留者」「引き揚げ者」「残留孤児」「空襲被害者」等の類型を問わず、直ちに補償されるべきだとは言い難かったかも知れません。ところが、戦争という同一の原因により被害を受けた国民の中から、例えば「国との雇用関係」などという特定の要件を設定して、特定のグループにのみ、補償措置を与え、他方で「空襲被災者」という「グループ」にだけは一切の救済を拒否するとなれば、日本国憲法の規範構造(統治構造)の中で、国の行為により、補償立法の傘に中にはいる集団と入らない集団が形成されることを意味することになります。出発点において一人一人が平等であり、「国民が全て等しく受忍しなければならない」集団(被告答弁書より)に属していた人々が、日本国憲法下において、意図的な国の行為により、「補償を受ける集団」「受けない集団」に区分けされたのですから、その措置(取扱いの格差)に対し憲法上の規範が適用されることは当然の事です。もし国が「補償を受ける集団」「受けない集団」の区分けを違法に誤っていたとすれば、国家賠償法上違法の評価を受けることは当然にあり得ることです。従って「これに対する補償は憲法のおよそ予想しないこと」であるとか、「およそ国賠法上の違法評価を受ける余地はない」とする被告主張は根本的に誤った法解釈をしているものと言わざるを得ないのです。 4, また、立法不作為の違法を検討するにあたっては、立法府の持つ裁量権の逸脱ないし濫用の有無を検討することは当然でしょうが、これまでに主張してきたところからも、空襲被災者の原告らのみが、他の戦争犠牲者・戦争被害者と切り離され、補償の埒外におかれるべき合理的理由は全くありません。しかも救済立法の枠内にいる軍人・軍属等に付与される補償内容との格差は、前記の通り拡大の一途をたどっているのであり、その放置は、絶対に容認できないところまで来ています。一方で今般国から提出された答弁書においては、この差別の合理性に関する記述は僅かに「・・・(軍人・軍属に関する援護法や被爆者援護法は)・・これらの法律により援護の対象となる者は、一般国民と異なるものとしての保護を受ける合理性を有するものであるから、空襲被害者に対する立法の不作為が憲法14条の定める平等原則に違反することが明らかな場合であるとはいえない」とある部分だけであり(答弁書11頁「立法不作為と憲法14条」)、しかもそこで述べられているのは、「一般国民と異なるものとしてしての扱いの合理性」であり、なぜ空襲被災者である原告らだけが、軍人・軍属等に比較して差別されているのかの「合理性」に関しては一切何らの説明もなされていないのです。すなわち、原告らだけが、戦後補償措置から取り残され、未だに何らの対処もなされていないで放置され続けていることについての合理的理由は被告答弁書においても実質的な主張はないのです。原告らが現在においても被っている格差や権利侵害の重大性に鑑みれば、立法に向けた合理的期間を遙かに経過した今日、立法府における裁量権を観念することはもはや出来ず、被告国の立法不作為は裁量権を著しく逸脱した明確な違法状態と評価せざるを得ないものといえるのです。 5, 最後に裁判所に対し申し上げます。本件訴訟で原告らは、先の戦争に基づく戦争被害を救済しない政治の怠慢に対し、単純にその肩代わりを裁判所に担って欲しいと要求しているのではありません。原告らが司法の遡上に載せているものは、継続する重大な人権侵害(放置)と差別の違法性(著しい不合理)という問題であります。つまりは人権問題への救済を司法に提起しているのです。これからも原告及び代理人らは、 @ 差別の違法性(著しい不合理) A 継続する重大な人権侵害(放置の実体) の2点につき、主張を補充し、必要な立証を徹底して尽くす所存であります。 政治部門との対比において、司法裁判所の持つ固有の任務は、違法な人権侵害の救済,特に少数者の人権保障,という機能です。戦後64年を経過し,戦争被害者は,ますます高齢化し,亡くなっていくものも多いのです。その絶対数,国政に対する発言力という観点からすれば,すでに少数者と言わざるを得ません。このような少数者の人権を保障することこそが司法に求められる役割です。裁判所は「差別と人権」の問題から逃げてはなりません。この問題に対し真正面から向き合い、原告らの置かれた状態が違憲状態・違法状態であることの宣言(宣告)とともに、原告らの侵害された権利救済を図られるよう重ねて求めるものであります。. |
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