先に発表した緊急意見書(2013.11.5)

こんなことで、いいのだろうか 秘密保護法案 / 日本版NSC

Q 1  原発やTPPにかかわる情報は、「特定秘密」にならないか
Q 2  指定や提供を、「行政機関の長」にまかせて大丈夫か
Q 3  「特定秘密」は将来まで保存され、将来は公開されるか
Q 4  「適性検査」が行われるのは 5年後だけか
Q 5  秘密保護に関して、公安警察はどんな役割を果たすか
Q 6  「特定秘密」を知った国会議員は、何ができるか
Q 7  新聞記者に対する捜査と公判はどうなる
Q 8  「業務に従事する者」の「取材活動」のみが免責対象か




【PDFファイル】
Q 9  特定秘密だと知らずに関わった場合は、処罰されないか
Q10  共謀罪は、何をもたらすか
Q11  「共謀」や「独立教唆」は、どのようにして摘発するか
Q12  「有事」のときに、秘密保護法はどんな役割を果たすか
 
Q13  秘密保護法は、「国際標準」より厳格か
Q14  「積極的平和主義構想」の下で、「日本版NSC」はこの国をどこに導くか
Q15  NSCの任務は、中長期的基本戦略の策定か、緊急事態への対応か
Q16  国家安全保障局で、制服組(軍人)の影響力が増大する危険はないか
 

発行にあたって ――― 強行採決の「歯止め」となることを祈念して
   




Q1 原発やTPPにかかわる情報は、「特定秘密」にならないか

 自民党ホームページのコラム「特定秘密保護に関する法律案Q&A」には、 「原発事故やTPP交渉に関する情報は、本法案の別表のいずれにも該当せず、特定秘密の指定の対象となりません」 と書かれている。本当だろうか。
 秘密保護法案では、指定の対象となる情報は、「別表」に掲げる事項に関する情報であることが要件となる。
 「別表」には、「防衛」について10項目、「外交」について5項目、「特定有害活動の防止」について4項目、「テロリズムの防止」について4項目の事項が掲げられている。
 原発事故の情報に関しては、原子力規制委員会の委員長が、別表「テロリズムの防止」についての項目のうち、「テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止のための措置又はこれに関する計画若しくは研究」に該当すると判断すれば、特定秘密の指定対象となり得ると発言している。
 原発は、ひとたび事故が起これば、大量の放射性物質を飛散し、人々を放射線被曝の恐怖に陥れる核エネルギー施設である。原発がテロリズムの標的になる可能性は否定できない。秘密保護法が成立すれば、原発が炉心溶融(メルトダウン)にいたる外的事象の想定、原発における過酷事故対策など原発事故の情報は、「テロリズム防止のための措置又はこれに関する計画若しくは研究」にあたると判断されるだろう。
 森雅子担当相も、法案審議のなかで、「警察における原発の警備の実施状況」は秘密指定の対象であると答弁している。「原発の警備の実施状況」に関連するとして、原発事故の情報が特定秘密に指定されない保証はない。
 TTP(環太平洋経済連携協定)交渉に関する情報に関しては、外務大臣が、別表「外交」についての項目のうち「外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他安全保障に関する重要なもの」に該当すると判断すれば、特定秘密の指定対象になる。
 TPPにおける交渉項目は多岐にわたっているが、保険や食品の安全基準など非関税障壁の問題は、日本の公的医療保険制度や食の安全を崩壊させかねない危険性をはらんでいる。こうした問題に関する交渉情報が、「国民の生命及び身体の保護」に関わるものとして、特定秘密の対象となる可能性は十分にある。森雅子担当相も、後に否定したが、一旦は、TPP交渉の情報が特定秘密の対象になると発言している。 
 原発事故に関する問題、TPP交渉に関する問題は、いずれも国家安全保障会議(日本版NSC)で、議論されうるものである。日本版NSCでの議論を漏えいさせないことが法案の目的であることからしても、これらの情報が特定秘密の対象となる可能性はいと言わねばならない。    

(山崎 徹)



Q2 特定秘密の指定や提供を、「行政機関の長」 にまかせて大丈夫か

 特定秘密の指定は「行政機関の長」が行い(3条)、「必要があると認めたとき」には「行政機関の長」が他の行政機関や外国に提供できることになっている(6条、9条)。
 「行政機関の長」は、指定したことを公表したり、国会に報告したりする必要はないから、「なにが秘密か」は「国会にも国民にも秘密」である。
 それだけではない。指定や提供を行うとき、内閣総理大臣の承認を得る必要はなく、指定や提供をしたことを内閣に報告する必要もない。だから、「なにが秘密か」は「内閣総理大臣や内閣にも秘密」で、指定が30年を超えることになってはじめて「内閣に当該特定秘密を提供することができる」(4条3項)だけである。
 この行政機関には、防衛省や外務省などの「防衛」「外交」を扱う官庁だけでなく、復興庁や原子力規制委員会、公安調査庁といった官庁も含まれている。
 こんなことも起こり得るだろう。

* 復興庁は、原子力発電所のある○○県××市の防潮堤の構造を、安全保障上の理由から特定秘密にした。この特定秘密はどこにも提供されなかった。
* 原子力規制委員会は、再稼動をはじめた□□県△△原子力発電所の安全性やセキュリティを、テロ対策の必要性から特定秘密にした。この特定秘密は警察庁にだけは提供されたが、□□県知事はおろか、内閣総理大臣にも知らされなかった。
* 公安調査庁は、在日●●人団体の構成や動向を特定秘密に指定し、内閣総理大臣に無断で■国に提供した。この情報は、■国の■CIAによって活用された。

 これでは、秘密保護法で、行政官僚の情報独占と恣意的操作を保障していることにしかならない。内閣がかわるたびに交替し、専門的・技術的知見を持っているわけでもない閣僚に、制御することなどできるわけがないのである。
 国民や国会が知らないところで、情報の独占と操作が行われること自体許しがたいが、そのことはひとまずおこう。地元自治体も政府も知らないまま「防潮堤の構造」や「原発の安全性やセキュリティ」が秘匿されるようで、住民の安全が守れるか。内閣総理大臣も外務大臣も知らないところで治安情報が流出して、まともな外交ができるか。
 ここで問われているのはこのことである。
 だが、秘密保護法には、こうした「官僚の独占」や「情報の流出」を抑止する仕組みは、まったく組み込まれていないのである。
 なお、こうした懸念からか、一体とされている「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法」では、行政機関のNSCへの情報集中を義務づける規定が挿入された。正面からははかれない「中枢への集中と統制」を、「裏口」からはかろうというのなら、秘密保護法の破綻を示す以外のなにものでもない。

 (田中 隆)



Q3 「特定秘密」は、将来まで保存され、将来は公開されるのか

 行政機関が持つ情報は、国民の税金でつくられ、または入手されたもの。国民の共有財産である。当然、公開されるのが原則である。
 これにたいし秘密保護法では、広範な情報が秘密に指定され、最高5年とされる指定期間の更新にも、回数の制限はない。30年ごとに内閣の承認があれば、半永久的に秘密にされる。ここに最大の問題がある。
 もうひとつ、いったん秘密指定された情報も将来には保存・公開されるのか、という問題がある。秘密指定期間中は情報が保存されるだろうが、その指定が解除されるとたちまち廃棄されてしまうのでは、歴史による検証ができなくなる。公文書管理法が適用される行政文書の保存期間は最長30年。期間経過後はしかるべき場所に保存され、公開される。
 これにたいし同法の適用がない防衛秘密の実情はつぎのとおりである。
 2007年から11年までの5年間で防衛秘密とされたのは5万5000件。このうちすでに3万4300件が廃棄されてしまった。公開されたのはたった1件である。
 敗戦直後、多数の公文書が焼却され、そのため歴史の検証が及びにくくなった経過が想起される。ふたたびこのようなことが起こってはならない。
 ところが秘密保護法には、秘密指定を解除された情報の取扱いについてはなんの規定も設けられていない。また公文書管理法との関連にも触れられていない。
 そのため、特定秘密を解除された情報は、@すべてが廃棄の対象になるのか、それともA防衛秘密は廃棄できるが、すくなくともそれを除く行政文書は公文書管理法によって保存・公開されるのか−だれにも分からない。
 国や国民にとって重要な情報は、かりに一時期秘密にされようとも、将来まで保存され、公開されねばならない。沖縄返還協定の裏には数々の密約が存在したことが明らかになっている。国民主権の立場からは、このような密約は許されない。しかしそうではあっても、これらの密約が保全され、将来において公開されれば、研究者、報道機関、一般市民らがそれらを認識することができる。そこから歴史の検証が始まる。
 沖縄の無条件返還と称しながら数々の密約を結んだことは許されなかった、という議論も当然あるだろう。これにたいし、当時の日米関係を背景に、沖縄を返還させるためにやむを得ない譲歩だった、という議論もありうるのかもしれない。しかしそもそも、密約が廃棄されてしまっては議論すら起こらないのである。
 秘密指定解除後にはすべての情報を保存・公開する条項がない法案には重大な欠陥がある。情報早期廃棄法に転化する危険性もある。最初の保存期間は最長5年であるが、1年と指定することもできる。行政機関にとって廃棄したい情報を短期の秘密指定をして廃棄してしまえば、公文書管理法を脱法することもできるのである。

 (松井繁明)



Q4 「適性検査」が行われるのは、5年後だけなのか

 特定秘密を取り扱う労働者に「5年に一度」の適性評価を行うことが定められているが、それ以外の調査はなされないのか?
 12条に定められている適性評価のタイミングを、一人の労働者の立場にたって考えてみる。
 最初に適性評価を受けるのは、「特定秘密の取扱いの業務を新たに行うことが見込まれることとなった」(12条1項一号)時点である。この「初回の適性評価」によって特定秘密を漏らすおそれがないと認められれば、特定秘密の取扱いの業務を行うことが可能となる。
 その後は、「初回の適性評価」における結果の通知(13条1項)の日から5年を経過するまでは、原則として適性評価を受ける必要がない。そして、5年を経過した日以後も特定秘密の取扱の業務を引き続き行うことが見込まれる場合には、再度の適性評価を受ける必要があり(12条1項二号)、10年後、15年後にも、あらためて適性評価を受ける必要がある。
 例外として、5年を経過する前であっても、「引き続き特定秘密を漏らすおそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情」があると判断されれば、再度の適性評価を受ける必要がある(12条1項三号)なお、この「再評価」は、当該労働者が現に特定秘密を取り扱っているか否かを問わず行われることとなる。
 このことから、適性評価を受けて特定秘密を漏らすおそれがないと認められた労働者であっても、12条1項三号による適性評価の端緒、すなわち「引き続き特定秘密を漏らすおそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情」があるかについて、継続的調査が予定されていることが明らかになる。
 だが、その調査の主体、調査事項、調査方法、本人の同意の要否等、法案には何の定めもない。特定秘密や取扱者について情報の提供を受けた、公安警察によって行われるに違いない(→Q5)。このような法による歯止めが一切ない継続的調査が、調査対象者、その家族・友人等の関係者のプライバシー権等を侵害する危険性は、場合によっては適性評価以上に高いといわなければならない。
 この継続的調査における調査事項は、適性評価における調査事項(12条2項)に変動があるか否かが主となると予想される。すなわち、対象者の家族、同居人等に変動がないか、新たに借金をしていないか、飲酒量が増えたり、飲酒による問題行動が現れていないか、精神科を受診したり、カウンセリングを受けたりしていないか・・・等々、まさに、私生活上のあらゆる場面で、継続的に監視が行われるのである。

                               (山添健之)



Q5 秘密保護に関して、公安警察はどんな役割を果たすか

 警察は、秘密保護法によって2つの役割を担わされている。
 第1の役割は、秘密保護法違反などを捜査する司法警察員としての役割で、捜査のために特定秘密が提供される(10条1項一ロ)。
 弁護人に証拠として開示されないから、この提供も「闇の中」だが、それでも刑事訴訟法による捜査だからそれなりの限定はある。
 第2の役割は、警察組織をあげての「特定秘密の保持」で、そのために警察庁長官から都道府県警察に特定秘密が提供されることになっている(7条)。
 この7条の提供にはまったく制限がなく、警察庁が指定した情報や、警察庁が防衛省や外務省から提供を受けた情報が、警察機構の末端まで浸透できる構造になっている。提供には指定した行政機関の承諾が必要だが、「警察に守ってもらうこと」を拒否する行政機関があるとは思えない。
 案件の性格からいって、警察側の「受け手」は公安警察にならざるを得ない。公安警察には、防衛秘密や外交秘密が「秘密の取扱者」についての情報とともに伝達される。
 その「秘密の取扱者」は適性検査をパスしてはいるが、「引き続き当該おそれ(=漏らすおそれ)がないと認めることについて疑いを生じさせる事情」が起これば、ただちに適性検査を受けさせることになっている(12条1項三)。
 だから、「秘密の取扱者」は、日常的に監視のもとにおかねばならない。「検査のときは家族に不審な動きはなかったが、変わらないか」「酒量は増えていないか。上司の悪口を口走るようになっていないか」などが、チェックされねばならないのである(→Q4)。
 その監視をだれが担うか。
 自衛隊には市民を監視して「反軍活動」を摘発する「憲兵」はおらず、外交を専門とする外務省にはもとより監視能力はない。かといって、「興信所と契約をして、適性検査にパスした私立探偵に検査させる」では、ほとんど「笑い話」だろう。監視ができるのは警察組織しかなく、実際に担うのは公安警察にならざるを得ない。
 だから、「秘密の取扱者」やその家族は公安警察の日常的な監視のもとにおかれ、「秘密の取扱者」や家族と接触したジャーナリストや研究者、市民も、公安警察の監視下に入ることになる。秘密保護法は、公安警察に、公務員や労働者、メディアや市民を、日常的に監視する「武器」を与えるのである。
 こうした「武器」がないもとでも、公安警察は市民に監視の目を光らせ、公務員を尾行しての政治弾圧を加え続けた。その活動は厳しく批判され、国公法弾圧堀越事件では無罪判決が確定した(平成24年12月9日付最高裁判決)。
 そんな公安警察に、市民や社会を監視する「武器」を与えていいのだろうか。

                               (田中 隆)



Q6 「特定秘密」を知った国会議員は、何ができるか

 国会議員は、重要な情報を入手したら、その情報が正確かどうかを確認する。正確な情報であることがわかれば、その情報を基に国政調査権を活用し更なる情報を収集する、入手した情報を生かし法案審議や行政監視のために審議に活用する、記者会見を開いて国民に情報を開示し問題点を訴えるなど、主権者である国民の代表者として活動する。
 巨大な国家権力の実態に迫り、国会でただすことが国会議員の本来の姿であった。
 しかし、これは秘密保護法が成立する前の国会議員の活動に過ぎない。秘密保護法が成立した後の国会議員の活動は日本国憲法制定以来の危機に瀕するであろう。
 まず、「秘密会」に提出された特定秘密を知った国会議員は、他人に知らせることは「漏えい罪」として、5年以下の懲役に処せられる(22条2項)。所属政党や会派に持ち帰り、報告・審議することも、秘書に調査を命じることも、専門家・研究者の意見を聞くこともできなくなる。
 「秘密会」の開催には出席議員の3分の2以上の賛成が必要であるが、行政機関の長は、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」と判断すれば、結局、秘密を提供しないことも可能である(10条1項)。国会で、「秘密会」の開催が決まっても、最終的には、行政機関の長の判断によって、重要情報が国会に全く提供されないこともある。
 別ルートから特定秘密が知らされた場合はどうなるか。
 内部告発により特定秘密が国会議員にもたらされた場合、内部告発者は10年以下の懲役に処せられることになる(22条1項)。それを取得した国会議員には共犯の嫌疑がかけられ、捜査の対象となる。ジャーナリストなどから入手した場合は、その入手経路が「管理を害する行為」(23条1項)によって取得したかが、捜査の対象となる。
 「特定秘密が漏れた」となれば公安警察は必ず関係者を捜査の対象とする。国会議員や秘書は取り調べにさらされ、嫌疑をかけられれば強制捜査や公訴提起を受けることになる。
 「特定秘密かどうかはっきりしない重要な情報」がもたらされる場合もある。「特定秘密かどうかも秘密」であり、国会議員であろうと判断は至難である。国会議員がその情報を活用したとき、特定秘密だった場合には、入手経路が「管理を害する行為」にあたるかどうかについて、捜査の対象となる。
 石破茂自民党幹事長は、特定秘密を漏えいした国会議員に失職などのペナルティを科す国会法改正の必要性を表明した。「重要な情報」に接することは国会議員としての地位を失うことになりかねない。
 特定秘密を入手し、あるいは「重要な情報」に触れた国会議員は、憲法の定めた国民の代表者にふさわしい活動はできなくなる。
 国会は形骸化し、議会制民主主義は危機に瀕することになる。

                               (長澤 彰)



Q7 新聞記者に対する捜査と公判はどうなる

 「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為」は、一定の要件のもとで「正当な業務による行為」(21条2項)とされている。この規定は捜査を制限するものではない。
 捜査機関は、個別事件ごとに捜索押収や逮捕の必要性を判断し、必要と判断すれば裁判所から令状を得て捜索押収や逮捕を強行する。正当行為かどうかの判断は捜査当局の裁量に委ねられ、令状を発する裁判所のチェックははたらかない。「ガサは入らない」との答弁(森雅子担当相)は捜査の実情とかけ離れており、現に谷垣禎一法務大臣によって事実上変更されている。
 「特定秘密の取扱者XがYにそそのかされてYに漏えいした」という事案で、Yに紹介されてXを取材した新聞記者Zはどうなるか。
 ]は漏えい罪(22条1項)、Yはその教唆(刑法61条、65条)の嫌疑で逮捕され、自宅などに捜索差押が行われる。Yと親交がありXを取材していたZは、連日のように警察から呼び出され、Xへの教唆や]との共謀(24条1項)がなかったか追及される。捜査機関の判断ひとつで、Zの自宅やZが勤務する新聞社の支局に捜索差押が行われ、パソコンや資料、メモなどがすべて押収される。
 それだけではない。
 逮捕されたXが連日の取調べで虚偽の「自白」を強要され、Zの「教唆」かZとの「共謀」を供述すれば、Z自身が逮捕され、起訴されるだろう。その取材行為が「専ら公益を図る目的を有し」(21条2項)ていたか、「法令違反又は著しく不法な方法によるもの」(21条2項)かを、最終的に判断するのは裁判所だから、判決が確定するまで、Zは被告人として裁判をたたかわなければならない。
 公判でも特定秘密の壁が立ちふさがる。
 検察官は、「当該捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者」(10条1項一号ロ)として、特定秘密の内容の提供を受ける。他方、Zや弁護人にはいっさい特定秘密は明らかにされない。検察官は、特定秘密の内容を記載しない起訴状を朗読し、弁護人が特定秘密の内容を尋ねても、「特定秘密に指定されている以上、明らかはにできない」として明らかにすることはない。Zと弁護人は特定秘密が何かも分からないまま、正当行為であることを立証しなければならない。
 特定秘密の内容は明らかにならないまま結審し、裁判長は「当該情報は外形立証により実質的な秘密であると推認できる」と判示し、10年以下の懲役(たとえば懲役3年、執行猶予3年)の有罪判決を宣告・・・秘密保護法の下では十分想定される事態である。
 秘密保護法の強行は、取材、報道の自由に対する重大な脅威となり、取材する側にも取材される側にも著しい萎縮効果が及ぶであろう。

                               (山口真美)



Q8 「業務に従事する者」の取材活動のみが免責対象か

 秘密保護法では、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為」に、免責が与えられることになっている。
 現在、個人がソーシャルメディアを活用することによって、誰もがメディア(情報発信者)となることができる。では、フリージャーナリスト、政党の機関誌、宗教団体の機関誌の取材行為、研究者による研究、市民団体の調査は、免責の対象になるのだろうか。
 法案の審議を行っている衆議院安保特別委員会では、「出版又は報道の業務に従事する者」とは、「不特定かつ多数の者に対して、客観的事実を事実として知らせることや、これに基づいて意見または見解を述べることを職業としその他社会生活上の地位に基づいて継続して行う者をいう」と答弁されている(2013年10月30日)。また、同委員会では、「フリージャーナリスト」も「業務に従事する者」に該当すると答弁されている。
 2013年11月8日の衆議院安保特別委員会で、森雅子担当相は、「政党や各種団体の機関誌の取材行為も、広く不特定かつ多数の方に客観的事実を事実として知らせるものなので、(法案で自由を保障した)報道等に該当する」と答弁し、政党の機関誌、宗教団体の機関誌発行のための取材行為が免責の対象になることを明らかにした。
 これらの答弁によれば、勤務しているかフリーであるかを問わず、「職業的なジャーナリスト」の取材活動は免責の対象になり、その他の者の取材や調査は処罰されるようである。「免責の対象」となったとしても、捜査機関による捜査は免れず、正当行為であることを証明するために長い裁判闘争をたたかうことにはなるが(→Q7)、そのことはひとまずおこう。
 重大なことは、「専ら公益を図る目的」をもって「法令違反又は著しく不当な方法」によらずに取材や調査にあたるのは、決して「職業的なジャーナリスト」だけではないことである。学者・研究者は真実究明のために「防衛」や「外交」などにかかわる情報に迫り、平和運動家や市民も平和を守るという「公益」のために情報にアクセスし、つかんだ「客観的事実を事実として」公表する。同じ「公益」を目的として、同じ方法で特定秘密にアクセスしながら、なぜ学者・研究者や市民は処罰されねばならないのだろうか。だれもがメディア(情報発信者)となって、不特定かつ多数の者に対して事実を知らせ、意見を表明するようになっている社会で、「業務に従事する者」=「職業的なジャーナリスト」との限定をつけることにはなんの合理性もない。
 「業務に従事する者」だけを免責することは、マス・メディアに法的特権を付与することを意味し、「社会的身分による差別」を禁じた憲法14条に抵触する。そして、「特権を付与されて権力に飼いならされたメディア」によって、報道の自由、取材の自由が守られ、知る権利の保障が実現することなどあり得ないのである。

                               (本田伊孝



Q9 特定秘密だと知らずに関わった場合は、処罰されないか

 取材する者が特定秘密であることを知らなければ、故意が否定されて罰されることはない。漏えい罪は重くなるが、国家公務員法の構造とかわらない・・推進側からこんな説明が流布されている(いそざき陽輔のホームページ「秘密保護法案の疑問にこたえる(10月1日)」など)。
 秘密保護法の構造や処罰規定の性格を、ことさら歪曲した説明と言うほかはない。
 特定秘密の指定では、「指定したこと」そのものが秘匿され、「なにが秘密かも秘密」となる。だから、市民もメディアも秘密の内容がわからないどころか、なにが特定秘密かもわからない。
 この構造のもとでは、市民やメディアが、ある情報について「特定秘密に違いないという確定的な認識」を持つことはできず、ほとんどは「探り出してはじめて特定秘密と判明」となる。
 このことを前提にもうけられた「管理を害する行為による取得」罪(23条)では、「特定秘密かも知れない」「特定秘密の可能性もある」という認識(未必の故意)があれば、故意が成立することにならざるを得ない。「なにが秘密かも秘密」という構造では、「確定的な認識」(確定的故意)をもっての取材などほとんど成り立たないから、確定的故意を要求すれば、取得罪が成立する場面はほとんどなくなってしまうのである。
 もっと厳しい解釈がされるかも知れない。
 特定秘密かどうかは公表されていないから、故意を論じる余地はない。公になっていない情報(つまり秘密)を取得すればそれだけで取得行為が成立し、特定秘密であった場合に「取得罪」が成立する・・こう解釈されれば、特定秘密かどうかは故意と関係のない処罰要件にされてしまい、未必の故意すら必要がなくなる。推進側がどう説明しようと、捜査機関や裁判所がこのように解釈する危険性はなくならない。
 特定秘密を取り扱う国家公務員にとっての意味も、「重くなるだけ」ではない。
 国家公務員法では守秘義務(同法100条)に「違反して秘密を漏らした者」が処罰される(同法109条一二号)。国家公務員法の漏えい罪の成立には、「秘密の認識」が必要とされており、秘密と知らなければ処罰されることはない。
 ところが、秘密保護法では、故意の漏えいだけでなく過失による漏えいも処罰されることになっている(22条4項)。この過失の漏えいには、「特定秘密の文書をうっかり紛失した」場合だけでなく、「特定秘密の情報と知らずに話してしまった」場合も含まれる。この後者の場合には、「特定秘密かも知れない」という認識(未必の故意)がなくても、処罰されることになる。
 国家公務員法とは、まったく構造が違うのである。

                               (田中 隆



Q10 共謀罪は、何をもたらすか

 現在の最高裁判例によれば、共謀に基づいて犯罪の実行が行われた場合、その関与者について、実行行為の分担の有無を問わず、共同正犯としての罪責を問うことができるとされている(「共謀共同正犯」)。
 この共謀共同正犯と共謀罪(24条)は一見似たようなものにみえるが、全く異質のものである。なぜなら、共謀罪は、複数の者が特定の行為の実施・遂行について計画・相談すれば、その行為を実行したか否かを問わず、犯罪として処罰することを可能とするものだからである。「故意の漏えい」(22条)や「管理を害する行為による取得」(23条)を行うことを複数人が協議すれば、それだけで最高懲役5年の罪が成立するのである。
 例えば、
@ 政府によって憲法に反する予算執行がなされた疑いがあるので、政府職員に内部告発を呼びかけようと数人で相談した。
A 政府が原発事故の情報をなかなか公表しないので、作業員として潜入取材しようと数人で相談した。
 これだけで、故意の漏えいの遂行を共謀した(@のケース)、管理を害する取得行為の遂行を共謀した(Aのケース)として、最高懲役5年の刑に処せられる危険がある。
 しかも、具体的な謀議行為はなく、複数の者の間に暗黙の意思の連絡があるにすぎない場合でも共謀と認められるとされていること(最高裁決定平成15年5月1日刑集57巻5号507頁参照)からすると、相談すらしていなくても「暗黙の了解があった」として処罰されるおそれもある。
 加えて、秘密保護法では、特定秘密の指定自体が秘匿され、国民は何が特定秘密かはわからない。とすると、政府が発表した以外の情報を知ろうと他人に相談し、あるいはそうした情報の入手を他人と相談しているとみられるような行動をすれば、いつ「明示」ないし「黙示の共謀があった」として処罰されるかわからない。
 それだけではない。こうした共謀罪の異常に広い処罰範囲は、様々な言動を口実した検挙を可能とすることをも意味しており、政府の方針に対する批判・反対の声を弾圧するために利用される危険性も極めて高い。
 さらに、25条では、24条の「共謀、教唆、扇動」のうち、「共謀」について捜査機関に自首した者は必ず刑を減軽または免除するとして、「国民相互の監視」と「密告」を奨励するためとしか考えられない規定まで用意されている(→Q11)。
 戦前の軍機保護法や国防保安法を彷彿させる仕組みである。
 共謀罪がもたらすもの、それは国民の口をふさぎ、国民相互の不信や監視を社会に蔓延させ、再び戦前のような息苦しい社会へと日本を変質させることに他ならない。

                               (森 孝博)



Q11 「共謀」 や 「独立教唆」 は、どのようにして摘発するか

 秘密保護法では、「漏えい」や「管理を害する行為による取得」の共謀・独立教唆・扇動が処罰されることになっている(24条)。
 扇動は不特定または多数の者をあおりそそのかすことで一定の外形が必要だが、共謀は「取得」などに向けて協議すれば成立し、独立教唆は「漏えい」をそそのかして決意させれば成立するから、会話だけで成立する犯罪である。
 外形を伴わないこれらの犯罪をどのようにして摘発し、検挙するか。
 方法のひとつは「密告のすすめ」や「内通者・スパイの活用」。
 共謀した者が自首すれば罪を減免することになっているから(25条)、「罪に問わないこと」を「エサ」に密告を奨励するのは、いとも簡単である。
 もう一歩進めれば、こんなこともできる。平和団体・市民団体などのなかに「内通者」を育成し、あるいは「スパイ」を潜入させる。その「内通者」らに「基地の秘密を探る活動」の協議を積極的に推進させ、協議が進んだら自首させて、関与した者を一網打尽に検挙する。「内通者」らは自首を理由に、逮捕も起訴もされない。
 共謀+自首減免のもとでは、こんな謀略も自由自在である。
 もうひとつの方法は、通話・通信の傍受あるいは会話の傍受。
 共謀も教唆ももともと会話だけで成立する犯罪だから、会話そのものを傍受して記録でき、必要なときに証拠にできれば、摘発・検挙はいとも簡単となる。
 「犯罪捜査のための通信傍受法」(盗聴法)で通信傍受が許容されているが、国民的な反対・批判を反映して、対象犯罪が組織的殺人や薬物犯などに限定され、傍受の実施にはNTT職員等の立会いが要求されている。
 ところが、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」では、通信傍受の対象犯罪の拡大(窃盗罪など)・立会の削除(警察署での傍受可能)や会話傍受の導入が検討されている。会話傍受は検討課題だが、通信傍受は「法制審では既定方針」とすら言われている。
 行政機関の秘密を市民から秘匿する秘密保護法と、市民の秘密を権力が盗み取る傍受の拡大が、同時併行で進んでいる。2つの動きは、「アメリカのような国とシステムになろう」とする点で同根であり、ひとつに結びつくに違いない。
 秘密保護法が強行されたとき、盗聴法の改正で登場する対象犯罪のなかに「秘密保護法違反」が加えられることは疑いを入れない。「漏えい」や「管理を害する取得」も、窃盗罪と同じ長期10年の懲役刑なのである。傍受拡大への反対が弱ければ、施設に盗聴器を設置する会話傍受まで広がる危険性も、決してなしとしない。
 共謀・独立教唆+盗聴の拡大は、平和団体・市民団体、労働組合、野党などの通信回線や事務所を、警察の日常的な盗聴のもとにおくことを、意味しているのである。

                               (田中 隆)



Q12 「有事」のときに、秘密保護法はどんな役割を果たすか

 武力攻撃(武力攻撃事態)やテロ等(緊急対処事態)への対処は、武力攻撃事態法(事態法)を頂点とする有事法制体系にまとめられている。有事法制のなかでただひとつ秘密にふれている自衛隊法の「防衛秘密」の規定(同法96条の2、122条)は、秘密保護法に吸収されて削除される(附則3条)。これ以外に有事法制に秘密に関する規定はなく、秘密保護法に「有事の際は適用しない」という除外はない。
 だから、戦争やテロが発生したら、有事法制は秘密保護法を伴って発動される。
 どんなことが起こるだろうか。
 まず、国会の承認。武力攻撃事態や緊急対処事態に際し、内閣総理大臣は対処基本方針について国会の承認を得ることになっている(事態法9条7項)。
 対処基本方針には、「武力攻撃事態であることの認定の前提となった事実」や「対処に関する全般的な方針」が記述されねばならず(事態法9条2項)、「対処基本方針の重要性にかんがみ、この国会承認の求めは、大至急行われなければならない」とされている(磯崎陽輔「武力攻撃事態法の読み方」48頁)。重要な対処基本方針を審議する国会に、事態や対処についての情報が、最大限提供されねばならないことは言うまでもない。
 ところが、秘密保護法により、「防衛に関し収集した・・情報」や「自衛隊の運用」は特定秘密に指定され(別表一、イ、ロ)、事態や対処にかかわる情報はすべて秘匿される。特定秘密の国会への提供は「秘密会」に限られ、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があれば「秘密会」にすら提供を拒否できる(秘密保護法10条1項一号イ)。
 これでは、国会は目と耳を封じられたまま承認を強要されるに等しい。
 次に、国民保護。戦争やテロ等が発生した場合、住民避難を中心とした「国民保護措置」が実行されることになっている。この「国民保護措置」は地方自治体が担うものとされ、避難住民の誘導にあたるのは市町村長、市町村職員、消防職員とされている(国民保護法62条)。誘導にあたる市町村長に、十分な情報が提供されねばならないことは言うまでもない。
 ところが、前記のとおり発生した事態や自衛隊などの対処は特定秘密に指定され、その特定秘密は警察庁長官を介して都道府県警察に提供されることはあっても(秘密保護法6条、7条)、地方自治体や消防に提供されることはない。
 これでは地方自治体や消防は、なんの情報も与えられないまま、住民に山野を彷徨させることしかできない。
 「国民の理解と協力」を掲げた有事法制は、戦争のための法制ではあったが、それでも国会や地方自治体の役割をそれなりに認めていた。この有事法制と、国会や地方自治体を暗闇のなかにおく秘密保護法は、本質的な矛盾をはらんでいるのではないだろうか。

                               (田中 隆)



Q13 秘密保護法は、「国際標準」より厳格か

 「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、戦力の保持と交戦権を否定したのが日本国憲法である(憲法前文・9条)。この平和憲法のもとでは、刑罰によって守られるべき軍事秘密は本質的に存在せず、仮に認められるとしても、極めて厳しく限定され最大限厳格に運用されねばならない。
 平和憲法は高く評価されているが、世界の国家は一部を除いて「軍」や交戦権を否定するところまでは到達していない。そうした多くの国家を含めた世界は、軍事秘密の秘匿とアクセスをめぐって、どんな「国際標準」が生み出しているだろうか(以下は、国立国会図書館・調査と情報806号「諸外国における国家秘密の指定と解除」による)。
 2013年6月、国連や地域機構を含む70か国以上の500人以上の専門家により、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」が生み出された。南アフリカ共和国の首都・ツワネで示されたことから、「ツワネ原則」と呼ばれている。
 この「ツワネ原則」は、平和憲法とは異なって、「武力による安全保障」を前提にしたものではあるが、それでも、要旨以下のような人権保障が明記されている。

@ 国際人権法、国際人道法の違反についての情報はアクセスを制限してはならない(原則10A 以下、カッコ内は原則の番号)。
A 秘密指定は無期限ではならず、最長期間が法律で定められるべき(17)。
B アクセスする権利を制限する正当性を証明するのは、政府の責務(1−4)。
C すべての情報にアクセスできる独立した監視機関が設けられるべき(6)。
D 漏えい者への訴追は、明らかになった情報により生じる公益より、現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす危険性が大きい場合に限って検討されるべき(43)。
E 公務員でない者は、秘密探索の共謀によって訴追されるべきではない(48)。
F 裁判の公開を侵害するために国家安全保障が発動されてはならない(28)。
 無制限・無期限の情報指定が可能で(@A)、特定秘密というだけでアクセスが遮断され(B)、「独立した監視機関」など設けられず(C)、特定秘密の漏えい、「管理を害する行為による取得」の共謀というだけで処罰され(DE)、裁判所に特定秘密を提出して実質審理をすることなどまったく考えてもいない(F)秘密保護法が、この原則から根本的に逸脱し、世界の流れに逆行したものであることは、ただちに理解できるだろう。
 「ツワネ原則」は国際法規ではないものの、世界が確立しようとしている「軍事秘密の秘匿とアクセスの国際標準」である。そのいま、平和憲法を掲げるこの国は、いっそう厳格な基準を生み出すどころか、「国際標準」を逸脱した逆行の途につこうとしている。
 これでは、世界に「好戦国家宣言」を発することにしかならない。
 それでも政府と国会は、こんな恥ずべき道を行こうというのだろうか。

                               (田中 隆)



Q14 「積極的平和主義構想」の下で、「日本版NSC」 はこの国をどこに導くか

 リチャード・L・アーミテージ(米元国務副長官)、ジョセフ・S・ナイ(米元国防次官補)は、2012年夏、「国際戦略研究所(CSIS)報告書」(いわゆる第3次アーミテージ・リポート)において、「日本が今後世界の中で一流国であり続けたいのか、あるいは二流国に甘んじることを許容するのか」と、ペルシャ湾の船舶交通やシーレーンの保護、イランの核開発問題等へ、日本が積極的かつ継続的に関与することを、なかば脅迫的に求めた。
 今回の日本版NSC法(国家安全保障会議設置法)は、その俗称の通り、米国のNSCを手本にしたものである。その目的は、外交・安保政策の司令塔として、国家安全保障に関する諸問題について、内閣総理大臣を中心に、戦略的観点から日常的、機動的に議論する場を創設し、政治の強力なリーダーシップにより迅速に対応できる環境を整備することとされる。
 特定秘密(情報)の指定と提供、その保持義務、違反者に対する重い刑事制裁を備える秘密保護法によってガードされ、米国との情報共有体制を前提に、外交安保政策の司令塔と位置付けられる国家安全保障会議の審議事項は、従来の「国防に関する重要事項及び重大緊急事態に対処する重要事項」という安全保障会議での審議事項から、「我が国の安全保障に関する重要事項」一般へと拡大される。
 日本版NSCは、国際協調主義に基づく積極的平和主義の名のもと、平和憲法下で国是として護り続けてきた「専守防衛」の建前を放棄し、米国の世界戦略にしたがって米軍とともに世界の「治安部隊」としての役割を担おうとするものであり、米国とともに「戦争をする国」にこの国を造りかえようとするものである。国家安全保障会議設置と秘密保護法制定の先には、集団的自衛権の容認と国家安全保障基本法の制定、そして本丸たる9条改憲が待っている。
 しかし、米国とともに戦争をする国造りの方向性は、オバマ政権下ではすでに傍流となってしまった一部国防総省とアーミテージ=ナイら「日本の調教師」(ジャパンハンドラー)の意向とは合致しても、オバマ=ケリーの主流派の意向に沿うものではもはやない。
 何よりも、この道が、日本の軍事国家化を促進し、東アジアの政治的・軍事的不安定要因となり、国是たる専守防衛の原則を蔑ろにし、ひいては平和憲法の破壊をもたらす道である。
 行け行けドンドンの威勢の良い掛け声に乗って、日独伊3国同盟を締結したあげく、アジア太平洋戦争という破滅の道に突き進んだこの国の戦前の教訓を想起すべきである。

                               (松島 暁)



Q15 日本版NSCの任務は、中長期的基本戦略の策定か、緊急事態への対応か?

 「総理を中心として、外交安全保障に関する諸課題につき、戦略的観点から日常的、機動的に議論する場を創設し、政治の強力なリーダーシップにより迅速に対応できる環境を整備する」ために日本版NSC(国家安全保障会議)を設置するのだという。
 そこには、
@ 平素から機動的・定例的に開催し、実質的に審議し、中長期的な国家安全保障戦略の策定を含む、基本的な方向性を定める「4大臣会合」
A 国防の基本方針、防衛大綱、武力攻撃事態への対処等、国防に関する重要事項を審議する「9大臣会合」
B 重大緊急事態等に関し、高度に政治的な判断を求められる重要事項等について審議し、事態対処につき、迅速・適切な対処に必要な措置を総理に建議する「緊急事態大臣会合」
の3つが予定されている。
 「4大臣会合」と「緊急事態大臣会合」は新設されるものの、現行の安全保障会議における「9大臣会合」はそのまま維持され、安全保障会議の文民統制機能は維持されると、菅義偉官房長官は繰り返し答弁している。しかし、文民による軍事の統制そのものは、安全保障の全般に貫かれなければならない大原則であり、国家安全保障の基本戦略、とりわけ4大臣会合が担うという中長期的な国家安全保障戦略においてこそ、文民統制の原則が貫かれるべきである。また、震災、領海侵入等の緊急事態にあっても軍人の暴走を許してはならず、防災出動を口実としたクーデタなどあってはならないのである。
 衆議院安保特別委員会において、宮家邦彦参考人(立命館大学客員教授)は、「NSCの本来の仕事は・・・・いかにして必要なときに短時間で自衛権の行使、もしくは行使をするかしないかについて決断をする、それが一番重要なポイントだ・・・・それができないのであれば、つくる意味はありません。・・・・NSCの本質は・・・・最終的には自衛権の行使の判断である」と陳述し、緊急有事における自衛権発動の判断こそがNSCの核心だと主張している。
 日本版NSCとは、「平時における基本戦略策定」のためなのか、「武力攻撃事態等における文民統制」のためなのか、それとも「緊急事態における迅速な対処」のための機構なのか。
 官房長官は、「そのいずれにも対応するための組織だ」と答えるかもしれない。
 しかし、「万病に効く」と称する薬ほど、治療効果の上がらない薬はない。
 このことを世の人々は、「虻蜂取らず」とか「二兎を追う者は一兎をも得ず」とか言うのである。

                               (松島 暁)



Q16  国家安全保障局で、制服組(軍人)の影響力が増大する危険はないか

 国家安全保障担当総理補佐官の常設ともに、日本版NSCの目玉として新設されるのが国家安全保障局である。
 国家安全保障局は、国家安全保障会議を恒常的にサポートし、内閣官房の総合調整権限を用いて国家安全保障に関する外交・防衛政策の基本方針・重要事項の企画立案・総合調整に専従するとともに、緊急事態の対処に当たり、国家安全保障に関する外交・防衛政策の観点から必要な提言を実施するとしている。
 また、国家安全保障局のトップに立つ安全保障局長の役割について、菅官房長官は、国家安全保障会議に関する業務の日常的処理、求めに応じ国家安全保障について総理へブリーフィング、米国の国家安全保障担当大統領補佐官や各国のNSCの責任者と緊密に意思疎通、加えて、「国内で緊急事態が発生した際には直ちに対応するのもこの局長」であり、このポストは、「国家安全保障に関する高度な専門性を有し、また実務に精通した人、そうした人を専従させる必要がある」と答弁している。
 一般に交渉・折衝においては、情報の保有者が優位に立つ。政治的決断や政策判断過程において、手持ちの情報量の多寡が、その発言力を左右する。
 国家安全保障局が新設されれば、関係機関からの情報(秘密)が集約・統合されてくることになり、対外的情報共有の窓口となるのもこの国家安全保障局である。その結果、情報(秘密)の集積場となる国家安全保障局は、今後、圧倒的な発言力と影響力を保有することになるであろう。
 定期的に入れ替わるとともに他省の情報(秘密)を持たない国務大臣や秘密保護法により重要情報(秘密)から隔絶された国会議員では、情報量に優る国家安全保障局にはとうてい対抗できないであろう。
 内閣官房の中に、秘密保護法によってガードされた情報(秘密)集積機関たる国家安全保障局が生まれ、ここが外交・防衛政策の基本方針や重要事項の企画立案を行い、緊急事態に当たっては、国家安全保障に関する外交・防衛政策の観点から必要な提言を実施することになるのである。その保有する権力はきわめて大きいといわなければならない。
 しかも、その構成は、60人中20人近くが制服組自衛官(軍人)によって占められるという。防衛軍事の専門家であり、軍事的合理性に依拠した思考回路やトップダウンによる機動的行動に慣れ親しんだ制服自衛官が大量に進出した国家安全保障局の新設は、安倍政権の積極的平和主義=米国とともに戦争する国造りと相まって、この国の軍事国家化を招きかねないのである。

                               (松島 暁)


発行にあたって

  特定秘密保護に関する法律案(秘密保護法案)が衆議院安保特別委員会で、安全保障会議設置法改正案(国家安全保障会議=日本版NSC設置法案)が参議院安保特別委員会で、それぞれ審議され続けている。両法案とりわけ秘密保護法案には各方面からの反対・批判が広がり、欠陥立法であることは白日のもとに明らかになっている。
  全国2000名の弁護士で構成する自由法曹団は、緊急意見書「徹底解明 秘密保護法案」(11月5日付)を発表し、法案の構造と問題点をあますところなく解明するとともに、仮にも軽々に採択されることがないことを強く要求した。
  にもかかわらず、政府・与党は今週中にも採決をはかろうとし、森雅子秘密保護法担当相は、なんの根拠も示さぬまま「緊急を要する法案なので」とメディアに放言するに至っている。これでは、世論の批判におびえ、平和や人権にかかわる法案の「逃げ込み成立」をはかろうとしていることにしかならない。
  本意見書は、秘密保護法案と日本版NSC設置法案の投げかける問題のいくつかについて、その本質と性格を明らかにしたものである。「国権の最高機関」(憲法41条)たる国会が「審議を尽くした」と言えるためには、その審議が、少なくともこれらの問題に、明確な解明と回答を与えるものでなければならない。
  本意見書が、国会内外での両法案の批判的検討に寄与し、政府・与党による採決強行の暴挙の「歯止め」となることを祈念してやまない。
  なお、本意見書は、自由法曹団改憲阻止対策本部秘密保護法プロジェクトの討議を踏まえて頁末尾に記載した担当者が執筆し、田中隆が編集した。
  執筆者・編集者はいずれも自由法曹団団員の弁護士である。
  また、法令名のない条文番号は秘密保護法案を指し、「安保特別委員会」は衆参両院の「国家安全保障に関する特別委員会」を指している。


【PDFファイル】     【 先に発表した緊急意見書(2013.11.5)】


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