本文へスキップ

日本政府が隠した「米軍の焼夷弾の威力」


  

「アメリカの焼夷弾の実験結果」は歪めて伝えられた


第2次世界大戦中、日本政府は国民に「空襲は怖くない。逃げずに火を消せ!」と宣伝していました。映画館でも、そうした国策宣伝のニュースが流されました。
1943年(昭和18年)2月24日公開のニュースの題名は「焼夷弾の威力」です。

 

1943年2月14日、「墜落した米軍機から押収したアメリカ製の焼夷弾を燃焼させる実験」が大阪市の淀川河川敷で実施されました。実験用に造った木造家屋を焼夷弾で燃やし、それを消火できるか実験する、という映像です。
このニュースが本当に恐いのは映像ではなく、ナレーションです。そのことは最後に触れることにします。

油脂焼夷弾の実験

まずは、「油脂焼夷弾」の実験です。

 

 ↓  発火の1秒後に・・・

 

 ↓  そして、2秒後には・・・

 

油脂弾は、いわば固形燃料と発火剤が一体化した焼夷弾です。
爆音がおこり、すぐさま火災が発生。1〜2秒で家全体が黒煙に包まれました。バケツリレーによる消火なんて無理です。

大型の油脂焼夷弾の実験

次は、大型の油脂焼夷弾の燃焼実験です。別の建物を使って実験開始です。

 

 ↓  この家が・・・

 

 ↓ その1秒後には

 

実際の焼夷弾は、上空から高速で落下して屋根と天井を突き破ります。その威力は絶大です。今回の実験では2階に設置した焼夷弾を爆発させています。やはり瞬時に火焔を噴出させて、家屋全体を炎に包んでいます。

黄燐焼夷弾の実験

次は黄燐(おうりん)焼夷弾です。黄燐は発火性が強く、燃やした煙は毒性が強いため、現在の日本では毒物劇物取締法による規制物質とされています。

 

 ↓  発火の瞬間は・・・

 

 ↓  その1秒後に・・・!!

 

かなりインパクトの強い映像です。爆音とともに一瞬で白煙を噴出して家屋を破壊しています。これでは、「焼夷弾に突撃して消火せよ」など絶対に無理です。

ところが、この燃焼実験の翌月に政府が発行した広報誌「週報」には、黄燐の煙は「生理的にはほとんど無害ですから・・・普通は防毒マスクを付けないで、恐れず突入し敢闘すること」(昭和18年3月24日号、10頁)と書かれています。おそるべき安全神話です。

このニュース映像を見たら、誰もが「焼夷弾は怖い。消火なんてできない。逃げよう!」と思いそうです。実際、ニュース映像では一瞬だけ、恐怖に固まる見学者の表情が映し出されます。

 
  焼夷弾の威力に、唖然とする見学者たち

しかし、当時の日本政府は、「空襲から逃げずに消火せよ」と命令していました(→参考ページ)。 そこで、国民が怖がって逃げないように、恐ろしい映像を打ち消すナレーションが流れるのです。

「消せる!」というナレーション

ニュースの最後に、勇ましい音楽に合わせて、ナレーターが力説しています。

【ナレーション】
 一見ものすごい威力を発揮すると思われるこの大型焼夷弾も、訓練ある隣組防護団員の消火の前には常備の砂、むしろ、防火用水で立派に消し止められ、尊い実験の結果が得られたのであります。
 備えあれば憂いなし、敗戦の面目挽回策にアメリカが唱える日本本土空襲もたゆまざる防空訓練と必勝の信念の前には全く恐るるに足らないのであります。

消火ポンプも消防車もない、消防士も来ない、それでも町内会(隣組)だけで消火できた、「尊い実験の結果が得られた」と言っているのです。一般市民が真実を知るのは、この翌年以降に実際に空襲を受けるようになった後のことでした。
日本政府は、アメリカ製の焼夷弾の危険性を十分に知りながら、国民には隠したのです。国民は、最後まで戦争に反対せず、戦争を怖がらず、空襲から逃げないよう指導されたのです。
政府が振りまく「安全神話」を信じるしかなかった。こんな歴史を、繰り返してはいけないですね。

この「焼夷弾の燃焼実験」は政府広報誌にも掲載され、「頑張れば焼夷弾は消せる」という国策宣伝に活用されました。政府広報誌に掲載された写真からは、実際に消せなかったこと、建物が全焼して崩壊したことが読み取れます。これについては、書籍「逃げるな、火を消せ!」に詳しく書かれています。


 *政府広報誌「写真週報」1943年3月3日号より
  (書籍「逃げるな、火を消せ!」に掲載)
 

 ↑ 一番下に「かす消てしうどは弾夷焼型大」と書いてあるのは、右から読みます。こちらは、ニュース映像とは違って悲惨な焼け跡の写真も登場しますが、それでも結論は「町内会の一般市民が自力で消火できた」と強調しています。

「空襲は怖くない」という情報統制と「逃げずに火を消せ」という防空法が、どのような社会を作りだしたか、人々をどのように巻き込んだのか。多数の資料画像を掲載した書籍「逃げるな、火を消せ!」を、ぜひお読みください。

  



Amazon  ▼楽天ブックス
セブンイレブン(店舗での受取りもOK)
紀伊国屋書店
honto(ジュンク堂、丸善)
E−hon(各地の書店での受取りもOK)
HonyaClub(各地の書店での受取りもOK)
TSUTAYA(店舗での受取りもOK)


*上記のニュース動画は、こちらで見ることができます。
「日本ニュース」1943年(昭和18年)2月24日

*戦時中の国策(防空法、情報統制)については、こちらもご覧ください。
 防空法と情報統制 トップページ
 





「防空法」を知るWebサイト

【問合せ先】
 〒534-0024
 大阪市都島区東野田町1-6-16
 ワタヤ・コスモスビル6階
 大阪京橋法律事務所
 弁護士 大前 治

 TEL 06-6167-5270

inserted by FC2 system